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■過ぎ去りし過去を求める前の物語■ 願わくは



 夢を見ていた。
 遠い記憶の夢だ。
 いまはもう、ずっとずっと遠く、二度と戻ることのできない大事な時。
 最後に見たカミュの表情はなにかを堪えるように歯を食いしばっていた。みんなの最後の言葉だってセーニャの背中を押して、背後に回った。きっと、言葉が出てこなかったんだよね…。
 カミュ、きみと最後に過ごした夜のこと、僕にとっては宝物なんだ。
 ラムダの宿屋で最後の夜を過ごしたこと、いまでもはっきりと覚えている。
 二人で明かりも灯さずに、言葉も交わさずに抱き合ったことを。

 お互いに涙を堪えて額を寄せ合って、このまま溶け合えたらどんなにかいいだろうと思った。なにかを言葉にすると、もう二度と会えないことが確実になってしまうようで、お互いに吐き出していたのは細い吐息だけ。
 見つめ合う瞳の中にはお互いが映り込み、時折それが歪むのはきっと涙のせいだ。
 僕は、だって、きみが大好きなのに。
 僕の使命はあまりにも強大で、僕が僕の自身の欲望のために投げ捨てるなんてことはできなくて。たくさんの命を救わなくてはならなくて。
 カミュ、できるならきみと一緒に。僕の願いはただそれだけなのに。
 諦めるしか、なかったんだ。

 僕の視界の中で、カミュが困ったように眉根を寄せて笑った。
 ぴったりと合わせていたおでこが離れたと思ったら、ぎゅう、と思い切り抱きしめられる。とても強く抱きしめられて、僕は思わず縋り付くように彼の背中に手を回した。肩口に顔を埋めれば、溢れ出た涙は止まることを知らないかのようにぼたぼたと流れて落ちる。
 カミュの着ている深緑フード付きコートがどんどん湿り気を帯びていき、いつしかそれは僕の涙でびちょびちょになっていった。
 こうして彼に抱き締められればいやでも本音が溢れてしまう。堪えて押し込めて、なんとかやり過ごそうとする僕の、吐き出してはいけない本音がボロボロと零れてしまう。

「いまなら、誰も聞いてないから言っちまえよ。」

 とても静かなカミュの声。
 いつも僕を励まして、時には叱咤してくれる、僕の大好きな声だ。

「う…っ、ふ…うっ、離れたく、ない!」

 ほんとは、カミュと離れたくなんて、ないんだ。
 ずっと一緒に居たくてたまらないのに。
 僕が吐き出す弱音を、カミュはただ静かに「うん、うん」と相槌を打ちながら聞いてくれた。

「なぁ勇者サマ、オレはお前の考えることに付いていくぜ、最初からそう言ってるだろ?」

 わんわんと声をあげて泣く僕の背中をあやすように、ポンポンとゆっくりと撫でてくれるカミュが、静かにそう話し出した。僕の呼吸が落ち着いて、ようやく涙も止まり出した頃。

「お前が勇者としての使命を優先せざるを得ないことも、十分に理解してるつもりだ。」

 カミュの顔を盗み見るように視線を向ければ、いつもと変わらぬカミュがとても静かな瞳でどこか遠くを見つめている。

「お前が過ぎ去りし時を求めるなら、それで構わないんだ。」

 カミュが僕の視線に気がついて、僕の大好きな空色の瞳をちらりと向けた。

「勇者の奇跡ってやつ、信じてるぜ。」

 ふ、と笑みをみせたカミュが、もそりと身体を動かして僕と見つめ合う格好になる。まっすぐに見つめる瞳はいつもと変わらずとても強くて穏やかだ。

「オレがお前に惹かれたように、過去のオレだっておんなじように惹かれるさ。もしも、いまのオレの記憶がないから好きにならないっていうなら起こしてくれ、奇跡ってやつを。それくらいオレはお前を信じてるし、勇者であるお前も信じてるんだぜ。」

 少しだけ照れたようにカミュがちらりと視線を外した。言葉にするととても簡単に聞こえてしまうそれも、カミュが僕の髪をするりと撫ぜながら真剣な表情で唱えれば、僕ですらそんな奇跡が起きるような気さえする。

「きみの記憶も、持っていきたいくらいだよ。カミュ…大好き。」

 大好きすぎて壊れてしまいそうなくらいに、きみが大好きなんだ。

「オレの記憶もイレブンの記憶も、こうしておでこをくっつけたら全部一緒になって、ひとつになればいいのにな。」

 こつんと小さな音を立てて、カミュがおでこをくっ付けてくる。閉じられた瞳は思いのほか長い睫毛に覆われて切れ長で、すごく綺麗だと思った。このまま時間を忘れてしまうほど見蕩れてしまって、睫毛の一本一本すら記憶に刻みつけようとしていた僕がいる。

 そして、ゆっくりとカミュが瞳を開いた。

 僕を射抜くような強くて真っ直ぐな視線が、呼吸すら止めてしまいそうなくらいに突き刺してくる。
 思わず息を止めて彼の視線を受ければ、僕は泣きそうな顔をしていたのか、「いまにも泣きそうな顔すんなよ」と笑われた。

「忘れんなよ、全部、『オレ』だからな。」

 カミュはそう言うと、ゆっくりと口唇を重ねてくる。しっとりと確かめるように、ゆっくりと味わうように。
 たくさんキスをして息が切れ始めた頃、カミュの手が僕を後ろへと押し倒した。
 ポスンとベッドへと倒れ込む僕の上にのしかかるように、カミュがそっと身体を横たえる。手のひらが僕の頬に触れた時、もうこの温もりには会えなくなると思ったら、突然涙がまた溢れ出した。

「か、かみゅ…、カミュ、」

 思わず両手で目元を隠してしまう僕の手の甲に、返事代わりのキスを何度も何度も落としたカミュが。

「オレの記憶も、持っていけよ。」

 そう小さく呟いて、僕の左手の甲にある勇者のアザに口付けをする。 少しだけそこが熱を帯びたように熱くなったような気がして、僕は手を退けるとカミュを感じたくて思い切り彼にしがみついた。
そうして、僕達は強く抱き合って、何度も何度もお互い飽きることなく求め続けた。
 カミュの細く見える、猫科の動物のようにしなやかな身体も、少しだけガサガサした指先の感触も、全部僕の身体に刻んで残して。
 細められた瞳は獲物を見据えるかのようで、いつも僕はそんな風に見つめられると適わないって思ってたことも、全部きみに伝えたい。
 きみの記憶を僕にくれるのなら、僕はいまの僕をきみに残していきたいから。僕を深く穿つきみ自身がどんなに熱くて、僕をどんどん突き上げて追い上げていくのか覚えていたい。
 それはみんな、いまのきみだから。

 できることなら、全てを抱えて逃げ出したいとさえ思う。許されるのなら、そうしたいと願う。

 でも。

 分かってる。
 僕は勇者として未熟だったばかりに、たくさんの犠牲を出してしまった。それをもう一度取り戻すために僕は行かなくちゃならないんだ、過去に。
 二度と会えないと分かっていても、全てを飲み込んで僕は―――――。

 大好きなカミュ、僕はきみと会えなくなってから初めて好きだってことに気がついた。いつも僕を引っ張ってくれる力強い手のひらは、過去のカミュも変わらないことは分かっているつもりなのに。
 僕を好きだと言って抱きしめてくれるカミュじゃないと思うだけで、いま僕を抱きしめてくれているカミュの背中にすがり付いてしまうんだ。

 どうか―――願わくは、未来が幸せな時間に包まれますように。
 僕の、これからすることが無駄ではないと思いたくて、ただ願う。
 カミュ、君と離れる決断を、いままで一緒に力を合わせて戦った仲間たちと離れゆくこの決断が、正しかったと思わせてください―――神様。

 いつしか眠ってしまった僕は、いつまでもいつまでもただそう願い続けた。
 カミュがそんな僕に、悲しさも辛さも痛みさえも押し込んでしまったかのように密やかに、眉根を寄せて口唇を寄せていたことなど、知らなかった。

「願わくは、オレのこの記憶のすべても過去に連れていってください、神様。」

 小さくて震える様なカミュの声が、キラキラと月明かりに溶けていく。



 僕は、明日過去へ向かう。




 
 
 
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